-シネマボックスの提案-
研究の背景と目的は?
今日では、Amazonプライムビデオ、Hulu、Netflixなどの動画配信サービスが手軽になり、自宅でにいながらにしてスマートフォンやテレビで映画を楽しめます。そのような時代にも映画館が存在し続けるために、映画館の存在意義を見出したいと考えました。
本研究の目的は、映画館の現在ある問題を研究し、最終的に解決策を考えていくこととしました。そして、デザイン思考の方法論を応用し、研究を進めることとしました。
研究のプロセスは?
ユーザーと共感する(Empathize) …インタビュー調査の実施
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課題を定義する(Define)
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アイディアを練る(Ideate)
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プロトタイプを作る(Prototype)
…ダーティプロトタイプ(クイックに作成するプロトタイプ)を作成
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検証する(Test)
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最終的な提案
国内外映画館の歴史
一方で、中間報告の段階で映画館の歴史などを調べると研究が深まるのではないかとの示唆を得たので、デザイン思考とは直接関係はないものの、国内外の歴史を振り返ってみました。
主に、映画先進国であり映画館発祥の地とされる米国の映画館の歴史を調査したところ、時代の流れによって映画館は変貌を遂げていました。人々の娯楽であった映画は、観る環境や空間を変えることによって、人々に幸せと安らぎの空間を与え、映画産業そのものを発展させる要因にもなったようでした。
国内映画館の現状
シネマコンプレックスが主流となり、3Dや4Dといった体験型上映など映画の楽しみ方が変化しています。一方で映画館のシステムも変貌を遂げています。インターネットで見たい映画を探し、オンラインで座席を指定して予約をします。並ぶ必要がなく、空いた時間を有効に使うことができるメリットがあると感じます。
劇場側にとってオンラインチケット販売は、上映作品の観客動員をほぼリアルタイムで把握できるというメリットがあります。
映画はより手軽に観賞することができるようになったものの、全ての映画上映施設で「人件費の上昇」「施設・設備の老朽化」が問題となっており、課題としては「顧客の開拓」「リピーターの開拓」「就業規則整備」「従業員教育」「設備資金調達」が挙げられています。(厚生労働省 興行場営業(映画館)の実態と経営改善の方策参照)
インタビュー調査による課題定義
男女18歳から30歳の計33人にインタビュー調査を行いました。質問は「映画館の好きなところ」と「嫌いなところ」をとしました。
●好きなところ
「音響が良い」、「スクリーンが大きい」
●嫌なところ
「マナーの悪い客がいる」「料金が高い」「映画に集中できない、周りが気になる」
こうした結果から、「映画館においてもっと豊かな体験を提供する」ということを課題に設定しました。
先行研究と今日の映画館の現状、そしてこのインタビュー調査をもとに、まずは小規模映画館のダーティプロトタイプの作成と検証を行いました。
ダーティプロトタイプの作成と検証
ダーティプロトタイプとは、雑にクイックに作るプロトタイプのことで、デザイン思考が興隆した米国シリコンバレーにおけるスタートアップ企業の文化を色濃く反映しています。すなわち「早く失敗し多くを学ぶ(Fail fast, Learn a Lot)」を実現するものといえます。
アイディア出しにおいては、インタビューで得られた「映画に集中できない」「マナーの悪い客がいる」「疲れる・リラックスできない」などに注目し、4章で述べた今日の映画の状況であるシネマコンプレックスをさらに細分化したプライベート感のある小規模映画館を実現しようと試みました。
ダーティプロトタイプは、身の回りにあるモノで空間を作り、アイデアのポイントを体験してもらいました。具体的には、大画面テレビとオフィス家具の椅子を並べた簡単な小規模映画館の体験実験です。2席、4席、6席、8席のそれぞれの設定で映画を鑑賞してもらい、評価をしてもらいました。
新しい映画館の提案
インタビュー調査、ダーティプロトタイプの実験を踏まえ、「シネマボックス」を提案します。このシネマボックスは3階建ての少人数用のカラオケボックスサイズを想定し、空間提案を基本としています。
考察・まとめ
映画→DVD販売→テレビ放送という上映順が定着している中、シネマボックスという形態は成り立たない可能性があります。しかし映画だけでなく、持参したDVDの視聴を可能にし、サプライズ動画やホームビデオも楽しめる形態にするのはどうでしょうか。周りを気にせず親しい人だけで楽しめる映画鑑賞の方法があると、迫力や臨場感のある大規模な映画館へ足を運ぶパイプ役を果たすかもしれないと考えます。
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